全国を旅して、阿蘇に住むことにした——地方移住・宿泊業・AI活用、今の仕事の話


「地方移住を考えているんですが、実際どうですか?」
この質問をよく受けるようになった。コロナ禍以降、地方移住への関心が高まっているのはデータにも出ている。総務省の調査によれば、東京圏からの転出超過が続いており、20〜30代の地方移住希望者は年々増加している。
ただ、「実際どうか」という話は、移住した人の体験談からしか得られない。数字や制度の話じゃなく、暮らしのリアルとして。
僕は熊本県南阿蘇村に移住して、宿泊業をベースに動画制作やAI活用の仕事を並行しながら暮らしている。今回は、移住を決めた経緯から今の働き方まで、できるだけ具体的に書いてみる。
移住のきっかけは「仕事がなくなった」こと
コロナ禍が明けたとき、仕事がなくなった。
全国を巡業するサーカスの広報を担当していたのだが、巡業ができなくなったのだ。熊本・山口・横須賀・富山・新潟・東大阪——各地に大テントを張って、地域に告知してお客さんを呼ぶ。その一連の仕事が、ある日突然できなくなった。
ただ、その時期に気づいたことがある。日本中を回ってきた中で、「ここに住みたい」と思える場所にすでに出会っていた。阿蘇の風景だった。
火山が作り出した広大なカルデラ、季節ごとに表情が変わる草原、空気の透明感——観光で訪れる場所ではなく、「ここで日常を過ごしたい」と思わせる何かがあった。仕事がなくなったことが、移住という選択を現実のものにした。
「不便そう」への答え
南阿蘇に移住したと言うと、必ず聞かれる。「不便じゃないですか?」
正直に言う。何も不便を感じていない。

都会にいると、車で30分は「遠い」と感じることがある。でも30分あれば、映画館にも大型スーパーにもホームセンターにも行ける。不便かどうかは距離の問題じゃなく、感覚の問題だったと気づいた。
さらに気づいたのが、車移動の質の違いだ。電車では周囲に人がいて、常に環境に合わせる必要がある。車は違う。好きな音楽を流して、ラジオを聴いて、一人で考え事をする。30分がまったく「移動時間」に感じない。自分だけの空間で過ごせる時間になる。
移住前に気になる「生活インフラ」の実態
- 買い物:車で20〜30分以内にスーパー・コンビニ・ドラッグストアあり
- 医療:大きな病院は車で30〜40分。救急体制も整っている
- ネット環境:光回線が通っているエリアが多く、リモートワークに支障なし
- 家賃:都市部の半分以下が相場。庭付きの家が借りられる
- 人間関係:地域コミュニティは濃い。地元の人は基本的に親切
「何かを我慢して田舎に住む」というイメージは、実際には違う。手放すものより、得るものの方が多いと感じている。
今やっている仕事のこと

今は宿泊業をベースに、動画制作とAI活用の仕事を並行してやっている。
動画制作はサーカスの広報から始まった
動画制作のスキルは、サーカス時代にYouTubeチャンネルを立ち上げたことがきっかけだ。「PR活動の一環」として担当したことが、そのままスキルとして身についた。今は企業や個人のYouTubeチャンネルの編集を手伝っている。特に得意なのは対談・解説系の長尺動画で、30分以上の素材を視聴者が離脱しない形に整理する作業だ。
AIはブームより前から実務で使っていた
ChatGPTが話題になるよりも前から、AIを実務に使っていた。音声でデータを入力してAIが読み上げてくれる仕組みを使い始めたのが最初だ。在庫確認の作業で、紙とペンを持ちながら数量をメモするのが当たり前だったのを、音声入力に変えた。手が空くので作業効率が大きく変わった。
また、写真で車のナンバープレートを読み取って、その日のお客様の情報をExcelに自動出力する仕組みも使っていた。自分が担当のときだけ、こっそり楽をするために始めたことだ。トレンドとして追っていたわけじゃなく、「これ使えば楽になる」という実感から始まっている。
宿泊業×デジタルの掛け算
宿泊業の現場にいながらデジタルの仕事もできる、というのは思った以上に強みになっている。OTAの運用(楽天トラベル・じゃらん・一休)も、HP制作の管理も、広告運用も、実際に現場で使いながら覚えた知識だ。「理論だけ知っている人」ではなく「現場で使ってきた人」として話せる。
バラバラに見える職歴の、共通する軸

サーカス・温泉旅館・ホテル——傍から見るとバラバラな職歴に見えるかもしれない。でも全部に共通することがある。「人の笑顔や日常の話を引き出すことが好き」ということだ。
知らない街に行って、地元の人に話を聞く。自慢げに話してくれる人も、恥ずかしそうに話してくれる人も、どちらも面白い。宿泊の仕事でも、お客様の地元の話を聞きながら、こちらはこの土地のことを伝える。その人の時間をどう有意義にするかを自然と考えている。
うまくいくときの共通点は、「空気を読めているとき」だと思っている。マニュアルではなく、その場その場で「今この人は何を求めているか」を感じ取って動く。サーカスの広報も、旅館のフロントも、ホテルの営業も、形は違うがそこに帰ってくる。
地方移住を考えている人へ
移住を検討している人によく伝えることがある。「まず短期滞在で試してみること」だ。
ゲストハウスや民泊を使って、1〜2週間その土地で生活してみる。観光じゃなく、生活として。スーパーに行って、近所を歩いて、天気の変わり方を体感する。それだけで、住めるかどうかの感覚は大きく変わる。
南阿蘇は、阿蘇山の恩恵を受けた温泉地でもある。生活しながら毎日温泉に入れる環境というのは、都市生活では得られない豊かさだ。
人を楽しませる仕事と、デジタルを使って仕組みを作る仕事。この両方が重なるところに、自分の仕事がある。そしてその仕事が、南阿蘇という場所でできている。それが今の話だ。